遺言信託(遺言による信託)とは?活用するメリットや注意点など

近年、生前対策を検討している人の間で「信託」に注目が集まっているようです。この信託には、信託契約や遺言信託などいくつか種類があります。この記事では、その中でも委託者(被相続人)の死後に効力が発生する遺言信託について説明します。この記事で遺言信託のメリットや注意点などを確認し、遺言信託を利用するかどうか決められるようになりましょう。

遺言信託(遺言による信託)とは?

遺言信託(遺言による信託)とは、遺言を使った信託のことです。信託とは、自己(委託者)の財産を他人(受託者)に預け、その財産から得た利益などを委託者に指定した人(受益者)に渡す制度のことを指します。そして、この信託を遺言で設定することを遺言信託といいます(信託法第2条第2項第2号)。なお、信託の方法には信託契約や自己信託という種類もあります。

遺言信託と呼ばれるものは2種類ある

一般的に遺言信託と呼ばれるものには以下の2種類があります。

  1. 民事信託としての遺言信託
  2. 金融機関のサービスとしての遺言信託

ここでは、遺言信託の種類とそれぞれの信託の違いについて説明します。

1.民事信託としての遺言信託

民事信託としての遺言信託は、前述した「遺言による信託」のことです。この遺言による信託の特徴は、被相続人の死亡をきっかけに信託の効力が発生し、受託者が受益者のために財産の管理や運用などを始めることです。たとえば、自分が亡くなったら所有する収益不動産を子どもに運用させて、そこで得た利益を残された配偶者に渡すといったケースが考えられるでしょう。

2.金融機関のサービスとしての遺言信託

金融機関のサービスとしての遺言信託とは、遺言の相談から遺言の執行までをトータルでサポートしてくれるパッケージ商品のことです。メガバンク、地方銀行、信託銀行などさまざまな金融機関で取り扱っています。遺言の信託とは異なり、こちらは被相続人(依頼者)から財産を託されて運用を行うわけではありません。あくまでも遺言手続き全般を依頼できるサービスといえるでしょう。

遺言信託(遺言による信託)を活用するメリット

遺言信託(遺言による信託)を活用する主なメリットは、以下のとおりです。

  1. 受益者のために財産を運用できる
  2. 生前は被相続人が財産管理を行える
  3. 簡単に信託内容の変更・撤回を行える

ここでは、遺言信託を活用するメリットを説明します。

1.受益者のために財産を運用できる

一般的な遺言では、自身の財産を誰に相続させるかしか決めることができません。しかし、遺言信託を活用すれば、その財産の管理・運用まで指定することが可能です。特に、被相続人が収益不動産や株式などを保有しており、相続人が高齢者や未成年者で管理・運用ができない場合に遺言信託を利用することで、その財産を処分することなく死後もそのまま活用し続けられます。

2.生前は被相続人が財産管理を行える

遺言信託は、被相続人が亡くなったときに効力が発生します(信託法第4条第2項)。そのため、生前は自身で財産の管理や運用を行うことが可能です。たとえば、障害を持つ子どもがいる場合、生前はその子のために自分が財産を運用し、死後は信頼できる人に任せるといったこともできます。

3.簡単に信託内容の変更・撤回ができる

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。このうち自筆証書遺言の場合は、書き直すだけで簡単に信託内容を変更・撤回することができます。一方、公正証書遺言や秘密証書遺言の場合は、公証役場で手続きを行う必要があり、手数料も支払わなければならないので注意が必要です。自筆証書遺言の場合であれば、簡単に変更・撤回が行えるでしょう。

遺言信託(遺言による信託)を利用する際の注意点

遺言信託(遺言による信託)には、以下のような注意点があります。

  1. 遺言書が発見されないと効力が生じない
  2. 生前の認知症対策とすることはできない
  3. 受託者の理解がないと拒否される可能性がある

ここでは、遺言信託を利用する際の注意点について説明します。

1.遺言書が発見されないと効力が生じない

遺言信託の準備をしても、その遺言書が発見されなければ遺言信託は行われません。また、遺言書に形式上の不備があり、遺言書が無効になっても遺言信託は行われないです。遺言信託を検討しているなら、たとえば、自筆証書遺言書保管制度を利用したり、公正証書遺言で作成したりするのがよいでしょう。また、事前に遺言書の種類や内容などについて、弁護士に相談しておくのもおすすめです。

2.生前の認知症対策とすることはできない

遺言信託は、遺言者(委託者)が亡くなったときに効力が発生します。言い換えると、生前には効力が生じないため、認知症対策や生前対策とすることはできないのです。もし生前、自分の財産の管理や運用を任せたい場合は、家族信託(信託契約)を活用することをおすすめします。

3.受託者の理解がないと拒否される可能性がある

遺言信託は契約による信託と異なり、受託者の意思に関係なく効力が発生します。しかし、受託者は必ずしもその業務を引き受ける必要はなく、業務を拒否することも可能です。そのため、事前に受託者の候補に依頼内容を相談し、承諾してもらえるよう説明しておくほうが望ましいでしょう。

遺言信託(遺言による信託)のことなら弁護士に相談を

遺言信託(遺言による信託)は、死後に自身の財産の管理・運用を信頼できる人に任せられる制度です。これを上手に活用することで、残された家族の生活を安定させられる可能性があります。メリットも注意点もあるため、よく理解したうえで利用するかどうか決めるようにしましょう。

遺言信託を含め、相続のことで悩みや疑問があるなら弁護士に相談するのがおすすめです。特に遺言信託をする場合は、信託の内容だけでなく、そのほかの形式や内容も重要になります。大野法律事務所でも遺言全般のご相談に対応しておりますので、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

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