遺言書が無効になるケースとは?遺言書に必要な要件と注意点を解説

遺言には厳格な要件が設けられており、要件を守っていない場合はせっかくの遺言書が無効になってしまいます。しかし、具体的にどのような要件を守ればよいのかわからないという人も少なくないでしょう。そこでこの記事では、遺言の要件と無効になるケースについて説明します。また、自筆証書遺言と公正証書遺言が無効になるケースも説明しているので、それぞれの注意点をよく確認しましょう。

遺言書は2種類の要件を満たす必要がある

遺言書の要件には、大きく以下の2種類があります。

  • 実質的要件
  • 形式的要件

ここでは、遺言書を作成するにあたっての要件について説明します。

実質的要件

遺言における実質的要件には、以下のようなものがあります。

  • 15歳に達した者は、遺言をすることができる(民法第961条)
  • 遺言者は、遺言をするときにおいてその能力を有しなければならない(民法第963条)

15歳未満の人が作成した遺言書や、認知症などで遺言能力を欠いた人が作成した遺言書などは無効になります。なお、未成年者や青年後見人のような制限行為能力者であっても、上記の条件を満たしている場合には、保護者の同意を得なくても遺言をすることが可能です(民法第962条)。

また、遺言は本人の自由意思に基づいて行われていなければなりません。仮に遺言書の作成にあたって、錯誤、詐欺、強迫などがあった場合は、その遺言は無効になります(相続人は当該遺言の取消しができる)。過去には錯誤かどうかを争い、遺言が無効とされた裁判例もあります(さいたま地熊谷支部平成27年3月23日判決)。

形式的要件

遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、一部の例外を除いていずれかの方法で作成しなければなりません(民法第967条)。また、民法第968条以下で、それぞれの遺言書の作成方法が定められています。民法で定められた形式を満たしていない場合、その遺言書は無効になってしまうので注意しましょう。

自筆証書遺言が無効になるよくあるケース

自筆証書遺言は、以下のような事情がある場合に無効になります。

  1. パソコンで遺言書を作成していた
  2. 遺言書に署名・押印がされていなかった
  3. 日付がないまたは日付が特定できなかった
  4. 内容が不明瞭で誰が何を相続するのかわからなかった

ここでは、自筆証書遺言が無効になるよくあるケースについて説明します。

1.パソコンで遺言書を作成していた

自筆証書遺言は、本文、日付、氏名などを全て自筆する必要があります。パソコンを使用したり、代筆を依頼したりして作成した遺言書は無効になります。なお、従来は遺言書に添付する財産目録も自筆する必要がありましたが、民法改正に伴い自筆の必要はなくなりました(民法第968条第2項)。

2.遺言書に署名・押印がされていなかった

自筆証書遺言の場合は、必ず署名・押印が必要です。自筆による署名と押印がない場合は無効になるでしょう。なお、署名は本名のほか、ペンネームや芸名などでも問題ありません。また、押印は実印である必要はなく、認印や拇印でもよいとされています。ただし、ペンネームや認印などの場合は相続人同士で争いになる可能性があるため、できる限り本名・実印にするのが望ましいでしょう。

3.日付がないまたは日付が特定できなかった

自筆証書遺言には、「○年○月○日」と日付を記載する必要があります。日付がない、または日付が特定できない場合は無効になるでしょう。ただし、日付の間違いについては、その間違いが容易に判明する場合は無効にならないとした判例もあります(最高裁昭和52年11月21日判決)。

4.内容が不明瞭で誰が何を相続するのかわからなかった

遺言書の内容が不明瞭で、誰がどの財産を相続すればよいのかわからない場合も、無効になる可能性があります。しかし、最高裁判所は「遺言者の真意を合理的に探究し、できる限り適法有効なものとして解釈すべき」という立場を示しています(最高裁昭和30年5月10日判決)。そのため、直ちに無効になるわけではありませんが、相続財産の内容はできる限り明確に記載するのが望ましいです。

公正証書遺言が無効になるケース

公正証書遺言は、公証役場という国の機関で作られているため、遺言書が無効になるケースは多くありません。しかし、以下のような理由により公正証書遺言が無効になる場合があります。

  1. 遺言者の遺言能力がなかった
  2. 立ち会った証人が適当でなかった
  3. 遺言作成時に口授が行われていなかった

ここでは、公正証書遺言が無効になるケースについて紹介します。

1.遺言者の遺言能力がなかった

公正証書遺言を作成する場合も、遺言者の遺言能力が求められます。公正証書遺言の場合は通常、公証人が普段の言動をよく確認し、それに問題がなければ遺言書の作成を行います。そのため、遺言能力が問題になるケースは少ないです。しかし、それでも遺言能力が疑われるケースもあり、遺言書を作成した時点の遺言能力が否定されれば無効になってしまいます。

2.立ち会った証人が適当でなかった

公正証書遺言を作成する際は、証人2人が立ち会う必要があります。この証人にも一定の要件が設けられており、たとえば、未成年者、推定相続人・受遺者(これらの配偶者や直系血族)、公証人の配偶者、四親等以内の親族、書記、使用人などは証人となることができません(民法第974条)。民法で禁止されている人が証人になっている場合も、公正証書遺言は無効になってしまうでしょう。

3.遺言作成時に口授が行われていなかった

公正証書遺言は、原則として遺言者が遺言の趣旨を口授する必要があります。この口授とは、遺言者が積極的に遺言内容を告げることを指します。公証人が質問し、それに「はい」「いいえ」だけで答えるようなやり取りは、口授とはいえないため無効になります(最高裁昭和51年1月16日判決)。

遺言書を無効にさせたくないなら弁護士に相談を

遺言書を作成する際は、遺言の要件を満たしておかないと無効になる可能性があります。また、仮に有効な遺言書を作れたとしても、遺言の内容で相続トラブルに発展するケースもあるので注意が必要です。事前によく要件などを確認し、それをきちんと守って遺言書を作成しましょう。

大野法律事務所では、相続問題が得意な弁護士が遺言書の作成をサポートさせていただきます。遺言を有効なものにするだけでなく、将来のトラブルを予想してそれを防止できる内容を提案するよう努めています。遺言の形式や内容などで困っていたら、まずは当事務所までご相談ください。

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