遺留分侵害額請求をされたら?侵害者側が取るべき対応をケース別に解説
突然「遺留分侵害額の請求をします」と書かれた郵便物が届いて驚いた人もいるでしょう。このような郵便物が届いた場合、無視をせずに適切な対応をとる必要があります。この記事では遺留分侵害額請求をされた方に向けて、請求内容の確認事項や侵害した人がとるべき対応などについて説明します。この記事を参考に、これから何をすればいいのか理解できるようになりましょう。
遺留分侵害額請求を無視してはいけない!
遺留分侵害額請求とは、被相続人から行われた遺贈や贈与で相続人の遺留分を侵害した場合に、侵害額に相当する金銭を支払えという請求のことを指します(民法第1046条第1項)。遺留分侵害額請求をされた場合、その請求内容を確認し、権利者と支払内容などについて話し合う必要があります。
仮に遺贈や贈与が有効なものだとしても、遺留分侵害額請求を無視するのは望ましくありません。無視した場合、最終的に訴訟を提起され、その判決正本をもとに強制執行(財産差押え)を行われるリスクがあります。請求をされたらまずはその内容をしっかりと確認し、適切な対応を取りましょう。
遺留分侵害額請求をされたときの4つの確認事項
法定相続人から遺留分侵害額請求をされた場合は、まず以下のポイントを確認しましょう。
- 自分が遺留分侵害額請求の侵害者に該当するか
- 相手が遺留分侵害額請求の権利者に該当するか
- 遺留分侵害額請求の金額は法的に適正なものか
- 遺留分侵害額請求権が時効にかかっていないか
ここでは、遺留分侵害額請求をされたときに確認すべき4つの項目について説明します。
1.自分が遺留分侵害額請求の侵害者に該当するか
遺留分侵害額請求は、ある相続において法定相続人の遺留分を侵害している受遺者・受贈者に対して行われます。侵害者がひとりだけの場合は、基本的にはその人が侵害者になると考えられます。
しかし、受遺者や受贈者が複数いる場合は、ほかの侵害者に請求する必要があるかもしれません。これについては民法第1047条第1項に規定されているため、以下にポイントをまとめておきます。
- 受遺者と受贈者がそれぞれ1人ずついる場合:受遺者が先に負担する
- 受遺者が複数いる場合または同日に贈与を受けた受贈者がいる場合:それぞれが目的に価額に応じて負担する
- 受贈者が複数いて贈与の日にちが異なる場合:新しい贈与の人から順に負担する
侵害者が複数人いる場合は、まず誰が負担をするべきかという確認が必要になります。
2.相手が遺留分侵害額請求の権利者に該当するか
遺留分は、被相続人の配偶者、子ども、直系尊属に認められた制度です(民法第1042条)。そのため、請求者が被相続人の兄弟姉妹の場合は、その遺請求に応じる必要はありません。また、直系尊属が法定相続人になるのは、第1順位の相続人である子どもや孫などがいない場合です。相続人に子どもなどがいる場合は、直系尊属からの請求にも応じる必要はないでしょう。
3.遺留分侵害額請求の金額は法的に適正なものか
遺留分侵害額請求の金額は、以下の手順で計算します。
- 遺留分額=相続財産の合計額(財産-負債)×個別の遺留分の割合
- 遺留分侵害額=遺留分額-権利者が取得する相続財産-権利者の特別受益額-権利者の遺贈額+権利者が承継した負債の額
計算式は複雑ですが、基本的には「遺留分額=遺留分侵害額」となります。そのため、まずは「相続財産の合計額」と「個別の遺留分の割合」を確認しましょう。なお、遺留分の割合は「配偶者:2分の1」「子ども:2分の1」「直系尊属:3分の1」と定められています(民法第1042条)。
4.遺留分侵害額請求権が時効にかかっていないか
遺留分侵害額請求権には、以下の時効が存在します(民法第1048条)。
相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないとき
相続開始のときから10年を経過したとき
遺留分侵害額請求をされた時点で侵害から1年が経過していれば、消滅時効の援用により権利を消滅させられます。また、10年以上前の遺留分を請求された場合は、除斥期間により援用をしなくても権利は消滅しています。遺留分侵害額請求をされた場合は時効と除斥期間も確認しましょう。
【ケース別】遺留分侵害額請求をされたときの侵害者側の対応
遺留分侵害額請求をされた場合、以下のような状況によって対応方法が考えられます。
- 権利者の請求内容に納得している場合
- 納得はしているが手元にお金がない場合
- 権利者の請求している金額に納得がいかない場合
ここでは、3つのケースに分けて遺留分侵害額請求をされたときの侵害者側の対応を説明します。
1.権利者の請求内容に納得している場合
権利者の請求内容に納得している場合は、内容証明郵便などに書かれている内容に従って金銭を支払いましょう。権利者と交渉する必要もないため、最もスムーズな解決方法といえます。
2.納得はしているが手元にお金がない場合
遺贈・贈与された財産が不動産などで、すぐに支払いができない場合もあるでしょう。そのような場合は、権利者に対して分割払いの交渉をすることをおすすめします。分割払いにする際はいつ支払うのか、いくら支払うのか、どの口座に支払うのかなどの項目を決めておきましょう。
3.権利者の請求している金額に納得がいかない場合
権利者が請求している金額や請求そのものに納得がいかない場合もあるでしょう。そのようなときには権利者と金額や請求内容について交渉することをおすすめします。なお、話し合いがまとまらない場合は、遺留分侵害額請求の調停・訴訟を起こされるリスクがあるので注意が必要になります。
遺留分侵害額請求をされた場合のおすすめの相談相手
遺留分侵害額請求をされたら、弁護士や司法書士(認定司法書士)に相談するのがおすすめです。ここでは、それぞれの専門家にどのようなことを相談できるのかについて説明します。
1.弁護士
弁護士は、請求金額に関係なく依頼者の代理人として権利者と交渉することが可能です。遺留分侵害額請求の場合は、請求金額が高額になるケースが多いでしょう。そのような大きなお金が関係する相続トラブルについては、弁護士に相談・依頼するのが望ましいです。
2.認定司法書士
認定司法書士とは、簡易訴訟代理関係業務を行える司法書士のことです。簡易裁判所で扱う訴額が140万円以下の事件であれば、法律相談に応じたり、代理人となったりすることができます。遺留分侵害額請求の請求額が140万円以下の場合は認定司法書士に相談するのもよいでしょう。
遺留分侵害額請求をされたら誠実な対応を心がけよう
遺留分侵害額請求をされたら、以前行われた遺贈や贈与がほかの相続人の遺留分を侵害している可能性があります。「遺贈や贈与は有効だから自分には関係ない」などとは考えずに、まずは請求内容を確認したり、請求内容を踏まえて適切な対応をとったりしましょう。
しかし、遺留分侵害額請求をされた場合の確認事項は多く、制度が複雑で確認に時間がかかるものも多くあります。そのため、遺留分侵害額請求をされた段階で、一度、弁護士に相談することをおすすめします。大野法律事務所でもご対応できますので、まずは気軽に当事務所までご相談ください。