相続回復請求権とは?真正相続人が相続権を侵害された場合にできる対処法

相続回復請求権とは、相続権がない人が相続財産を勝手に処分・独占している場合に、その人を廃除して相続権を回復させる権利のことを指します。相続回復請求権を行使するためには、その条件を正しく理解し、適切な手段で権利を主張する必要があります。そこでこの記事では、相続回復請求権の概要、権利を行使するための条件、具体的な手続きなどについて説明します。

相続回復請求権とは?

相続回復請求権とは、表見相続人に相続権を侵害された真正相続人に対して認められている、表見相続人を廃除して真正相続人の相続権を回復させる権利のことです(最高裁昭和53年12月20日判決)。

相続回復請求権は、民法第884条に定められている権利です。しかし、条文には期間の制限しか規定されていないため、権利の性質や請求できる相手方に関していくつかの解釈があります。相続分野の中でも特に難しいため、相続権を侵害されたら弁護士に相談することをおすすめします。

相続回復請求権を行使するための3つの条件

相続回復請求権を行使するためには、一般的に以下のような条件を満たす必要があります。

  1. 権利を行使する人が真正相続人であること
  2. 権利を行使される人が表見相続人であること
  3. 相続回復請求権の時効が成立していないこと

ここでは、相続回復請求権を行使するための条件とそれぞれの意味について説明します。

1.権利を行使する人が真正相続人であること

相続回復請求権を行使する人が、真正相続人である必要があります。真正相続人とは、本来の相続人という意味です。相続人とは被相続人の財産を実際に相続する人のことを指し、具体的には被相続人の配偶者や子どもなどが挙げられます。また、以下の人にも相続回復請求権は認められています。

  • 真正相続人から相続した人
  • 相続人から相続分を譲り受けた人
  • 包括受遺者(プラスの財産もマイナスの財産も全て遺贈される人)
  • 遺言執行者(遺言書や裁判所から指定された遺言の内容を実現するための人)
  • 相続財産管理人(相続人が全くいないときに裁判所によって選任される債務の清算などを行う人) など

2.権利を行使される人が表見相続人であること

相続回復請求権を行使される人が、表見相続人やほかの共同相続人である必要があります。表見相続人とは、真正相続人に対立する立場の人のことで、相続権がないのにかかわらず相続人として行為をしている人のことを指します。たとえば、以下のような人が表見相続人に該当します。

  • 婚姻が解消された配偶者
  • 父に認知されていない子ども
  • 養子縁組を解消された子ども
  • 相続欠格・相続廃除された人 など

ほかの共同相続人も相続回復請求権の相手方となる

相続回復請求権の相手方には、ほかの共同相続人もなりえます。たとえば、ひとりの相続人が財産を勝手に処分した場合に、ほかの相続人が相続回復請求権を行使するなどです。なお、実務上は表見相続人よりも、ほかの共同相続人に対して相続回復請求権を行使するケースのほうが多いです。

3.相続回復請求権の時効が成立していないこと

相続回復請求権には、以下のような時効が存在します(民法第884条)。

  • 相続権を侵害された事実を知ったときから5年間行使しないとき
  • 相続開始のときから20年を経過したとき

相続権を侵害された事実を知ってから5年間権利を行使せず、表見相続人が消滅時効の援用をすればその後は権利を行使できなくなります。なお、ここでいう表見相続人は、侵害していることを知らない善意の人に限られます。侵害していることを知っている悪意の人は対象になりません。

相続回復請求権の行使が必要になる具体例

相続回復請求権は、以下のようなケースで行使すべき権利です。

  1. 相続廃除された人が財産を相続したケース
  2. ほかの共同相続人が勝手に財産を独占しているケース

ここでは、相続回復請求権を行使したほうがよい事例を紹介します。

1.相続廃除された人が財産を相続したケース

本来、相続廃除された相続人は、遺留分を含め相続権を有しません。しかし、ほかの相続人が相続廃除の事実を知らない場合、その相続廃除された相続人が財産を相続してしまう可能性があります。このようなケースであれば、真正相続人は表見相続人に対して相続回復請求権を行使できます。

2.ほかの共同相続人が勝手に財産を独占しているケース

ほかの共同相続人が、遺産分割前に勝手に財産を独占してしまうケースもあります。たとえば、被相続人の家を無断で占拠している、預貯金を使い込んでいるなどです。このような場合にも、独占している共同相続人に対して相続回復請求権を行使することができます。なお、相続回復請求のほかに、不当利得返還請求や損害賠償請求などにより救済を目指すこともできるでしょう。

相続回復請求権を行使する際の具体的な手続き

相続権を侵害されている事実を知ったら、以下のいずれかの対応をとる必要があります。

  1. 相手方に対して直接請求する
  2. 相続回復請求の訴訟を提起する

ここでは、真正相続人が相続回復請求権を行使する際の具体的な手続きについて説明します。

1.相手方に対して直接請求する

まずは、相続権を侵害している人に対して直接返還を求めます。一般的には、内容証明郵便を使って請求することが多いです。相続権がないことを知らないだけの場合、当事者同士での話し合いで解決する可能性があります。合意が取れたらその内容をまとめた合意書を作成しておきましょう。

2.相続回復請求の訴訟を提起する

当事者同士の話し合いで解決できない場合は、裁判所に対して相続回復請求の訴訟を提起する必要があります。訴訟を提起する際は、相手方の住所地を管轄する地方裁判所に訴状を提出します。勝訴できれば裁判所から返還命令が出され、返還に応じない場合は強制執行ができるようになります。

相続権を侵害された場合は弁護士に相談を

相続では、表見相続人などに相続権を侵害された場合もあります。そのようなときには相続回復請求権を行使することで、表見相続人を廃除し、ご自身の相続権を回復することが可能です。しかし、相続回復請求権は複雑な権利ですので、一般の方にとってわかりにくいという課題があります。

そこで、相続権を侵害された場合には弁護士に相談することをおすすめします。特に相続問題が得意な弁護士であれば、最適な選択肢を提案してくれたり、迅速に手続きを進めたりしてくれます。相続権を侵害されて困っていたら、まずは相続問題が得意な大野法律事務所にご相談ください。

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