特別受益とは?ほかの相続人が特別の援助を受けた場合にできる対応

相続をするにあたり、ほかの相続人が被相続人から特別の援助を受けていたというケースもあるでしょう。その際、相続人同士の不公平感を解消するために「特別受益の持ち戻し」という手続きを行うことがあります。この記事では、特別受益の概要や特別受益の持ち戻しについて説明します。特別受益のことを知りたい方は、この記事を参考にしてください。

特別受益とは?

特別受益とは、被相続人から遺贈や贈与によって得た特別の利益のことを指します。相続人の中に特別な利益を得た人がいる場合、そうでない人との間で不公平が生じます。そこでこの援助を特別利益として扱い、それを考慮して遺産分割を行うよう定められています(民法第903条)。なお、このように特別受益を遺産として扱うことを、一般的には「特別受益の持ち戻し」といいます。

ほかの相続人の特別受益を主張するための条件

ほかの相続人の特別受益を主張するためには、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 相続人に対する援助であること
  2. 遺贈や贈与による援助であること
  3. 同程度の援助を受けていないこと
  4. 持ち戻しが免除されていないこと
  5. 被相続人の死後10年以内であること

ここでは、ほかの相続人の特別受益を主張するのに必要な条件について説明します。

1.相続人に対する援助であること

特別受益は、遺贈や贈与が共同相続人に対して行われた場合に主張できます。共同相続人とは、当該相続において相続人となる人のことです。一般的には、被相続人の配偶者と子どもが相続人となると考えればよいでしょう。仮に、子どもの配偶者などに対して多額の贈与が行われていたとしても、その人は相続人にはならないため、特別受益を主張することはできません。

2.遺贈や贈与による援助であること

特別受益の対象は、遺贈や多額の生前贈与となっています。具体的には共同相続人だけが、結婚費用、大学費用、不動産購入費用、事業資金などの援助を受けている場合に主張できます。なお、一般的な扶養の範囲内での援助や、被相続人の事業に従事して得た賃金などは対象になりません。

3.同程度の援助を受けていないこと

特別受益は、一部の共同相続人だけが特別な援助を受けている場合に主張できます。たとえば、相続人が長男と次男で、2人とも大学費用や婚姻費用などの援助を受けていたとします。このような場合は不公平が生じないため、相続において特別受益を主張することはできません。

4.持ち戻しが免除されていないこと

被相続人が「特別受益の持ち戻しを免除する」と意思表示をしていた場合、特別受益に該当するケースであってもその意思に従う必要があります(民法第903条第3項)。また、婚姻期間が20年を超える夫婦間で行われた居住用不動産の遺贈・贈与は、当該意思表示がなくても免除したものと推定されます(同条第4項)。このような場合は特別受益を主張できないので注意しましょう。

5.被相続人の死後10年以内であること

2023年4月1日より、相続人が特別受益を主張できる期間が、相続開始から10年以内になりました(民法第904条の3)。そのため、ほかの相続人の特別受益を主張する際は、被相続人が亡くなってから10年以内に行う必要があります。

ほかの相続人の特別受益を主張する際の流れ

ほかの相続人の特別受益を主張する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 特別受益に関する証拠を集める
  2. 遺産分割協議で特別受益を主張する
  3. 協議がまとまらなければ遺産分割調停を申し立てる

ここでは、特別受益を主張する際の流れについて説明します。

1.特別受益に関する証拠を集める

特別受益を主張するにあたり、まずは特別受益に該当する遺贈・贈与が行われたという証拠を集める必要があります。たとえば、以下のようなものが証拠になるでしょう。

  • 被相続人の預貯金通帳、振込明細書
  • 被相続人と相続人が交わした贈与契約書
  • 不動産の全部事項証明書、売買契約書 など

通常、通帳を確認すれば「いつ、誰に、いくら振り込まれたのか」を知ることができ、これで特別受益の有無を判断できることが多いです。なお、過去の通帳が処分されている場合でも、金融機関に問い合わせることで、過去10年間の取引明細書(入出金明細書)を発行してもらうことができます。

2.遺産分割協議で特別受益を主張する

特別受益に該当する遺贈・贈与があった場合、特別受益を考慮して遺産分割をするよう相手方に主張します。相手方が特別受益を認めれば、それを踏まえて遺産分割協議を行います。話し合いで合意に至った場合は、一般的な協議と同じように合意内容をまとめて遺産分割協議書を作成します。

3.協議がまとまらなければ遺産分割調停を申し立てる

協議がまとまらなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになります。調停を申し立てる際は、「誰に対する特別受益なのか」「どのような内容の贈与なのか」を具体的に主張し、その事実を裏付ける証拠を提出する必要があります。特別受益に該当すると認められれば、これをもとにアドバイスや解決策の提案をしてくれるでしょう。調停が成立すれば、調停調書が作成されます。

特別受益が認められた場合の持ち戻しの計算方法

ほかの相続人に特別受益がある場合は、以下のような手順でそれぞれの遺産額を計算します。

  1. みなし相続財産=遺産総額+特別受益額
  2. 特別受益を得ていない相続人の遺産額=みなし相続財産×法定相続分
  3. 特別受益を得た相続人の遺産額=みなし相続財産×法定相続分-特別受益額

たとえば、相続人が長男・次男の2人、遺産総額が3,000万円、長男への特別受益額が1,000万円の場合を検討してみましょう。この場合では特別受益を考慮して、長男は1,000万円(4,000万円×1/2-1,000万円)、次男は2,000万円(4,000万円×1/2)とすれば、公平な相続を実現できます。

ほかの相続人への特別な援助に不満があるなら弁護士に相談を

特別受益とは、被相続人から遺贈・贈与などによって受けた特別な援助のことを指します。特別受益がある場合は相続人間で相続できる財産に不公平感が生じるため、持ち戻しをして相続する財産を調整する必要があります。しかし、証拠集めや交渉が難航しやすいので注意しなければなりません。

当事者同士の話し合いで解決できない場合は、弁護士に相談するのもおすすめです。弁護士であれば特別受益に関する証拠集めから相手方との交渉まで一貫して対応することができます。特別受益など相続に関するトラブルがありましたら、相続問題が得意な大野法律事務所までご相談ください。

※電話相談、オンライン相談も可能です(日時のご予約が必要です。)お気軽にお問い合わせください。