特別代理人とは?未成年者や被後見人がいる遺産分割で必要な手続きを解説

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。このとき、相続人の中に親権者と未成年の子どもがいたり、後見人と被後見人がいたりする場合には、特別代理人の選任が必要になる可能性があるので注意が必要です。この記事では、このような特別代理人の基本について説明します。特別代理人を選任する際の流れや、選任する際の注意点なども確認しましょう。

特別代理人とは?

特別代理人とは、親権者と子どもに利害関係の対立がある場合(民法第826条)、または後見人と被後見人に利害関係の対立がある場合(民法第860条)に、子どもや被後見人のために選任される代理人のことを指します。たとえば、共同相続人に親権者と未成年の子どもがいる場合などが考えられるでしょう。特別代理人が必要な場合は、家庭裁判所に特別代理人選任の申立てを行います。

特別代理人の役割・職務

特別代理人は、相続人である未成年者や被後見人に代わって以下のようなことを行います。

  • 遺産分割協議に参加する
  • 遺産分割協議書に署名・押印をする

特別代理人は、あくまでも家庭裁判所から認められた範囲内の職務のみ行えます。家庭裁判所から認められていない職務については、行うことができません。

相続をする際に特別代理人の選任が必要になるケース

特別代理人は、主に以下のようなケースで必要になります。

  1. 共同相続人に親権者と未成年の子どもがいる場合
  2. 共同相続人に成年後見人と成年被後見人がいる場合

ここでは、相続をする際に特別代理人の選任が必要になるケースについて説明します。

1.共同相続人に親権者と未成年の子どもがいる場合

一般的に被相続人が亡くなったら、その配偶者と子どもが相続人となります。子どもが成人している場合は単独で遺産分割協議を行えますが、18歳未満の未成年者の場合は単独で遺産分割協議を行うことができません。遺産分割協議を単独で行えない理由は、遺産分割協議が法律行為となっているからです(民法第5条)。そこで未成年の子どものために特別代理人を選任する必要があります。

2.共同相続人に成年後見人と成年被後見人がいる場合

認知症になった親がいる場合、子どもが成年後見人になるケースもあるでしょう。このようなケースで、もう一方の親が亡くなった場合、成年後見人と成年被後見人が共同相続人となります。認知症の親は遺産分割協議に単独で参加できないため、後見人が自分にとって有利な遺産分割を行う可能性があります。そこで被後見人のために特別代理人を選任する必要があります。

相続をするにあたって特別代理人を選任する際の流れ

特別代理人の選任が必要な場合は、以下のような流れで行います。

  1. 特別代理人が必要かどうか判断する
  2. 特別代理人選任に必要な書類を用意する
  3. 家庭裁判所に特別代理人選任の申立てをする
  4. 家庭裁判所から特別代理人選任審判書が届く

ここでは、相続をするにあたって特別代理人を選任する際の流れについて説明します。

1.特別代理人が必要かどうか判断する

共同相続人に未成年の子どもがいるような場合でも、全てのケースで特別代理人が必要になるわけではありません。たとえば、以下のようなケースでは、特別代理人の選任は不要となります。

  • 遺言書に従う場合
  • 両親が離婚している場合
  • 親権者が相続放棄をした場合 など

上記のように制限行為能力者と保護者との間で利益相反行為が生じない場合は、特別代理人を選任する必要はありません。まずは、その相続において特別代理人が必要になるのかを確認しましょう。

2.特別代理人選任に必要な書類を用意する

特別代理人の選任が必要な場合は、以下のような書類を用意しましょう。

  • 特別代理人選任申立書
  • 未成年者や被後見人の戸籍謄本
  • 親権者、未成年後見人、成年後見人の戸籍謄本
  • 特別代理人の候補者の住民票または戸籍の附票
  • 遺産分割協議書案などの利益相反に関する資料 など

このうち特別代理人選任申立書は裁判所のウェブサイトで入手することができます。また、特別代理人選任を選任する際には、遺産分割協議書案といった利益相反に関する資料を提出しなければなりません。遺産分割協議書案は、原則として法定相続割合を守って作成するのがポイントになります。

3.家庭裁判所に特別代理人選任の申立てをする

特別代理人選任の必要資料を用意できたら、未成年者や被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して申立書などを提出します。申立ては、親権者や利害関係者などが行います。その際、制限行為能力者1人につき800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手が必要になります。

4.家庭裁判所から特別代理人選任審判書が届く

特別代理人選任の申立てを受けた家庭裁判所は、提出された申立書や資料を確認します。そして、問題がないと判断したら、家庭裁判所から特別代理人選任審判書が交付されます。この審判書には、選任された特別代理人の情報や認められた職務内容などについて書かれています。相続人はこの審判書に書かれた特別代理人を交えて、遺産分割協議を進めたり、遺産分割協議書を作成したりします。

特別代理人を選任する際の注意点

特別代理人を選任する際は、以下の点に注意する必要があります。

  1. 相続人ごとに選任する必要がある
  2. 特別代理人の選任までに時間がかかる
  3. 特別代理人に報酬が発生する場合がある

ここでは、特別代理人を選任する際の注意点について説明します。

1.相続人ごとに選任する必要がある

共同相続人に未成年の子どもが複数人いるというケースもあるでしょう。このような場合は、未成年の子どもそれぞれに特別代理人を選任する必要があります。ひとりで複数の未成年者や被後見人の代理人を兼ねると利益相反行為になるため、兼任できないという点には注意しましょう。

2.特別代理人の選任までに時間がかかる

特別代理人選任の申立てから実際に選任されるまでは、一般的に2~3週間程度であり、そこまで時間はかかりません。しかし、事前に遺産分割協議書案などを作成する必要があり、この準備に多くの時間を要します。特別代理人の選任に時間がかかると、「被相続人の死亡を知ったときから10か月以内」という相続税の申告期限に間に合わなくなる可能性があるので注意しましょう。

3.特別代理人に報酬が発生する場合がある

特別代理人が選任される場合、報酬が発生する可能性があります。選任された特別代理人が被相続人の親族などであれば、無報酬となる場合もあるでしょう。しかし、弁護士や司法書士が選任された場合は、10万円~数十万円程度の報酬を支払うことになるでしょう。

特別代理人が必要な場合は弁護士に相談しよう

特別代理人は、共同相続人に親権者と未成年の子どもがいる場合や、後見人と被後見人がいる場合に選任する必要があります。選任する際は、特別代理人選任申立書や遺産分割協議書案などが必要になり、時間がかかる可能性が高いため、早めに準備をして手続きを進めるようにしましょう。

特別代理人の候補者には親族なども選べますが、弁護士などの専門家を選ぶのもおすすめです。弁護士であれば、事前の準備から遺産分割協議まで円滑に進められるというメリットがあります。大野法律事務所でも特別代理人のご対応ができますので、まずはお気軽に当事務所までご相談ください。

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